文字の大きさ
〒870-0907 大分市大津町2-1-41 TEL:097-558-0300 FAX:097-558-1635

第32回 シルバーふれあい短歌・俳句・川柳展 🌺入選作品🌺

☆入賞者名、敬称略

【短歌】

短歌の部

☆奨励賞(最高齢者)☆

奥山に猪鹿達と共に住む猟師仲間は鹿村と呼ぶ
小野 次三(宇佐市)(九七歳)
青空にそびえ流るるこいのぼり我が子の未来見て祈りつつ
平林 彌生(大分市)(九九歳)
       ※年齢は令和三年四月一日現在

伊勢 方信 選

☆☆特選☆☆

足場のこる未完のビルに完売の幟が春の風にはためく
田染 鈴子(大分市)
〈評〉株価の変動を景気の指標とする世にあって、時代の実態をとらえるのは容易ではない。この歌、新型コロナウイルス禍のもとで、竣工を急ぐビルの完売の幟に、春を待つ、希望に近いものを感じている。

☆入選☆

鉛筆を「3B」に換へ今日もまたいまを生きむとドリル解く母
稲好 史朗(佐伯市)
〈評〉3Bの鉛筆は、軟らかな濃い芯なので、長時間使っても疲れにくい。「いまを生きむ」に、戦後の混乱期を耐え抜いた母の気概を見ている。
ロヒンギャの民それだけで逃げ来たる妹抱き守る姉も幼き
山口 親生 (大分市)
〈評〉ミャンマーのイスラム系少数民族ロヒンギアの民の映像から、差別により、女性や子供の多くが難民となる現実に、怒りと悲しみを深めた
「萬歳」の裏に陰るる別れなぞ知らぬ世へと時代は流る
大塚 勝正(由布市)
〈評〉歴史に学ぶことから遠離りゆく時代に入り、「萬歳」の声に送られ、戦場に散った若者や遺族の悲しみが、風化してゆくことを嘆いている。

 

山本 和可子 選

☆☆特選☆☆

帆を張ればたちまち空をとべそうな風が青野に吹き上りくる
大塚 常代(竹田市)
〈評〉シルバー世代の歌とは思えない感性豊かなみずみずしい秀作。「帆を張る」「空をとぶ」「青野」「風が吹き上がる」どのフレーズも読者に青春を想い出させる。材料が多いのに統一感があり、構成が巧みで韻律も美しい。

 

☆入選☆

百姓の吾に恵みのこの雨は余得の如き虹をも賜ふ
甲斐 雅史(佐伯市)
〈評〉「余得のごとき虹」が美しい詩情を醸すと共に、作者の自然の恵みに感謝している姿も見えて尊い。初句は自らの職業の肯定であり好もしい。
書初めに書きたる「希望」妻の字は孫に劣らぬ勢ひのあり
安達 郁雄(国東市)
〈評〉孫との年齢差を超えた勢いある妻の字に先細りな老の不安が吹き飛ぶ。皆で書初めをしている希望に溢れた温かい家庭がよく描かれている。
おのれ曲げずおのれ狭めて隠りたる男の洞に寒の雨降る
岡田 富美子(臼杵市)
〈評〉自らの狭量を嘆くようでもあり容認しているようでもあるが、男の美学を感じる。上句の対句表現、下句の暗喩などの修辞が秀逸。

 

太田 宅美 選

☆☆特選☆☆

出征の日の丸振った歴史秘め時雨に煙る今無人駅
神徳 和雄(津久見市)
〈評〉身近な人の出征に励ましの日の丸旗を振った駅での76年いや、その前の駅での回想歌。その駅が時代の流れを経て現在は無人駅で一入淋しく感じられる作者の心の裡が見える。折からの時雨も詩的雰囲気充分である。

☆入選☆

如月の夜は心もひえびえと胎児のように身をまるめ寝る
本浪 純子(宇佐市)
〈評〉若い頃は「ごろり休んだ夜が明けた」が加齢と共に就寝の体形も変わるので、心理的にもまるで胎児のようだと自嘲し納得するしかない。
皺多き妻の手を取り日だまりに小さき爪をいたわりて抓む
糸永 光(国東市)
〈評〉コロナ禍自粛や加齢で夫婦間は心を寄せ合う頻度も増え、連れ合いに対して外出時にも「気をつけて」やこの場面のような生活となった。
二胡で弾く「月の沙漠」を愛したる父は駱駝で黄泉へ旅立つ
香嶋 章子(佐伯市)
〈評〉二胡は最近小さなブームとなったが、私たち鶴崎踊りはよく似た胡弓で哀愁感を奏でる。「月の砂漠」と駱駝に父への冥界に深く心を寄せている。

【俳句】

俳句の部

☆奨励賞(最高齢者)☆

滝坪は大の氷柱で人集ひ
コロナにて孫も帰らぬお正月
小野 次三(宇佐市)(九十七歳)
梅仕事古木に思う母の味
芋掘りもせずに百三歳重ね
工藤 満千子(由布市)(百四歳)
       ※年齢は令和三年四月一日現在

山下 かず子 選

☆☆特選☆☆

土竜塚とんとん跳んで春隣
竹下 百合子(大分市)
〈評〉冬も終わりになる頃、ふとした事に春の喜びを感じるもの。ぽこぽこと盛り上がった土は厄介者のモグラの為業。それさえも笑ってゆるせるのだ。「トントントンデ」のリズムが春隣とよく響いた。

☆入選☆

生き死にのほかは些事なり黄水仙
安 鎮(大分市)
〈評〉ほんとそうです!黄水仙の明るさは「大方の事は笑い飛ばしてくれそう」と思わせてくれる。二物衝撃は季語の力で決まる。
寒九の雨遍く大地豊かにす
高橋 和美(豊後高田市)
〈評〉寒に入って九日目に降る雨は豊年の兆しという。すべての大地を潤す雨だけに焦点を絞り、自然の大景を描いた。
水仙花手折りて今日の畑仕舞ふ
芋岡 勝一(臼杵市)
〈評〉日課の畑仕事の終わりに水仙を剪って帰る。何気ない一日の何と仕合わせな景だろう。清楚な中の香りは疲れを癒す香りとなった。

 

吉原 白天 選

☆☆特選☆☆

白内障オペ後の雪の白さかな
松田 君子(大分市)
〈評〉今まで白内障にかかって見えなかった目が手術で急に見え出した。その驚きを雪の白さが鮮明に見えた事を句に見事に表現している。しかも、「かな」を用いて強調している。おそらく実体験を通しての素晴しい句である。

☆入選☆

話しつつ聞きつつ弾むおでん酒
立花 英樹(豊後高田市)
〈評〉おでんで酒を酌み交わし、多いに語り合う楽しい様子が目に浮かぶ。しかも、話しつつ、聞きつつと上手に使ったふれあいを良句である。
落葉焚く煙に浮かぶ過ぎし日々
 龍(日出町)
〈評〉煙を見ていると、嬉しかった事、悲しかった事、亡くなった人の事などが思い出される。その時の情景や心情がよく伝わる良句である。
柚子の香を髪に残してしまい風呂
梶谷 登志子(中津市)
〈評〉湯殿の様子や気持が良く伝わって来る。しまい風呂と柚子の香が響き合って、なんとも言えない情感を醸して出している良句である。

 

古賀 宣道 選

☆☆特選☆☆

初盆のギターケースが椅子の上
吉田 伸子(中津市)
〈評〉新盆の句だが名詞の羅列だけで何も語られていない。初盆の主、ギターケースの所有者、椅子の上にある理由、全てを季語と読者の想像に委ねたのだ。省略による寡黙と抑制により強く悲痛な思いを感じてしまうのである。

☆入選☆

咳の子とにらめつこして帰りけり
四浦 鳩(津久見市)
〈評〉風邪の子を見舞った句。「帰りけり」と素っ気ないが、「にらめっこ」に後ろ髪を引かれる思いと愛しく思う気持ちが溢れている。
啓蟄やもつとも軽き靴えらぶ
真砂子(大分市)
〈評〉「啓蟄」に暖かくなった喜びがある。しかし、「もっとも軽き」にはその喜びとともに加齢の身への思いがない交ぜになるのである。
無造作に差し出す夫の野水仙
石井 明美(津久見市)
〈評〉仲のよい夫婦である。「無造作」に主人の人柄がしのばれる。「野水仙」をよしとする作者、普段の二人が浮き彫りにされてくる。

【川柳】

川柳の部

☆奨励賞(最高齢者)☆

生涯を賭けて誇れるこの仕事
耐え忍びやって良かったこの仕事
北山 爲友(臼杵市)(九九歳)
定年のなき仕事あり短歌を詠む
老いたれば川柳を書くも仕事なり
首藤 ハルヱ(大分市)(九八歳)
       ※年齢は令和三年四月一日現在

相部 秀彦 選

☆☆特選☆☆

余生満たす仕事百歳近付ける
佐藤 昭德(大分市)
〈評〉残り少ない人生、毎日仕事に励み百歳を目指している。まさに人生百年時代に相応しい佳句。今やさきの見えない不透明な面もあるが平均余命だけはのび長命国となったが誰もが幸せな喜び合える長寿国の実現を願っている。

☆入選☆

百姓は生涯現役陽を仰ぐ
佐藤 政俊(竹田市)
〈評〉「農は国の本」といったのは昔の話。天職として農に生き、陽が昇る前から陽が沈んで暗くなるまで励んできた。「陽を仰ぐ」表現が素晴しい。
いつも何処かで国を支える働く手
金丸 土竜(佐伯市)
〈評〉災害列島日本は今コロナ禍に大童。特に医療従事者は感染症対策で大変な状況。台風がくれば災害復旧で走り、強い国土づくりに励んでいる。
喜びがよろこびを呼ぶ介護の手
飯干 美恵子(別府市)
〈評〉高齢者福祉の課題のひとつ。介護される方とする側の気持ちが一つになって喜びが生まれ笑顔になる。大きな笑いの輪をつくりましょう。

 

福澤 廣明 選

☆☆特選☆☆

子の畦を直す親父の頑固鍬
衞藤 巌(玖珠町)
〈評〉後継者を鍛え直す意気を感じる句です。タオルで鉢巻をして鍬をふる図が目に浮かびます。今は、後継者がいない農家が多く、悩んでいる親父さんも多いと思われます。機械を使わず、「鍬で直す」ところは、捻りのある句でした。

☆入選☆

家事万事妻のタクトはフォルテシモ
山本 泰光(国東市)
〈評〉ユーモア句です。奥さんが最前線で家事をしている様子が浮かびます。より強くタクトを振れば、きっと家族は動き出すに違いありません。
労いの酒に浮かれた仕事歌
道明(大分市)
〈評〉昔は、棟上げをすれば、餅が投げられ近所の人が拾っていました。屋根の下では、大工さんや関係者が揃って宴を始め歌が出る。ユーモア句です。
タイブレークバント成功さよなら打
穴井 和子(玖珠町)
〈評〉野球界の仕事をテーマにウィットのある句です。試合を長くしない為にタイブレーク方式になり、勝ってもいまいち納得できない事を読みました。

 

矢野 美佐江 選

☆☆特選☆☆

古稀過ぎて頑張る仕事ある感謝
遠藤 隆久(別府市)
〈評〉古稀を過ぎても、まだ生きがいのある仕事をして、がんばっている姿に感動した句です。ありがたいと感謝しながら暮らしていて、しあわせですね。

☆入選☆

サービス業仕事に笑顔添えて売る
油布 忠士(竹田市)
〈評〉品物に笑顔が添えられていると、買う方も笑顔になります。笑顔は大事ですね。
掃除洗濯今日も楽しく青い空
寺澤 貞子(中津市)
〈評〉さりげない日々を川柳にまとめていて、うれしくなりました。「楽しく」という表現がすてきです。
ひと踏んばり老いの力に汗を積む
安部 征二(大分市)
〈評〉年を重ねても力強くがんばっている姿、そして美しい汗。胸をうたれました。
※以上 作者敬称略